拡大する中国語学習者
1、世界から注目される中国
2010年、中国は経済の分野で日本を追い越し、アメリカに次いで第2位のGDP(国内総生産)を実現するとみられています。
中国のGDP成長率は、1979年から2008年までの30年間で、年平均9.8%に達しました。中国は約13億人の人口を擁しますが、それだけ大きな国が、それだけ長い期間にわたって、これほど高い成長率を維持したことは、人類の歴史には類を見ないものです。
この間の中国の成長率は、同じ時期の日本の2.4%を大幅に上回っているだけでなく、「奇跡」と呼ばれる高度成長期当時の日本(1956年から1973年までの18年間、年平均9.3%)よりも高く、期間も長くなっています。
2008年秋からの世界的金融危機において、震源地の米国にとどまらず、EUや日本といった先進地域も大きな打撃を受けている中で、中国経済は大きな影響を受けず、成長し続けています。2009年10月に発表されたIMFの世界経済見通し(改訂版)によると、2009年の中国の成長率はG20という主要国・地域の中で最も高い8.5%と見込まれています(図1)。中国が世界的金融危機を乗り越え、高成長の持続に成功したことにより、そのグローバル経済大国としての地位は不動のものとなり、世界からの注目を受けているのです。

2、日本での中国語学習者は200万人を突破
このように、世界から中国が注視される中、海外で中国語を学ぶ人口は約4,000万人に達しています。
欧米での中国語学習者も急増しており、学習人口はフランス語・スペイン語に次いで3番目となりました。また、全米では、中国語科目を設置する公立・私立の学校が10年前の200校から1600校に激増、今もなお増加の勢いは止まらない模様です。
また、日本国内でも中国語の学習人口は増加の一途を辿っており、200万人を突破したとも言われています。中国との関係が緊密化する中で、中国語を話せる人材の必要性がますます高まり、中国語学習者は今後も増加していくとみられています。
3、学校現場での中国語学習の広がり
文部科学省「平成20年度高等学校等における国際交流等の状況について」の調査によれば、平成21年6月1日現在、英語以外の外国語を開設する高等学校等は延べ2,027校(公立1,455校、私立572校)で、開設言語数は16言語となっています。そのうち、中国語を開設する高校が最も多く831校(履修者:19,751人)で、言語別の開設学校数の推移をみても、中国語の開設校が飛躍的に伸びていることがわかります(図2)。

【 文部科学省「平成20年度高等学校等における国際交流等の状況について」から引用 】
大学においても、第二外国語として中国語を履修する学生の数が急増していると言われており、学校現場でも、中国語学習者はますます増加していくものと思われます。
4、諸外国で進む多言語教育
現在、日本の外国語教育における必須科目は英語のみですが、海外に目を向けると、たとえば小学校から英語を必須科目としている韓国では、中学校と高等学校の教育課程に第二外国語が制度として位置づけられています。また、ヨーロッパにおいても複言語主義政策が推進されており、欧州評議会が2001年に発表した「ヨーロッパ言語共通参照枠組み(CEF)」(外国語学習者の能力評価における共通の基準)では、母語以外に2言語を学ぶ「1+2言語政策」が提案され、各国で推進されています。
このCEFでは、母語以外の言語学習の目的を、「ネイティブのように話せるようになること」ではなく、「異文化体験やコミュニケーションの道具として使えるようになること」として位置づけており、複数の言語を使用して様々な国の人とのコミュニケーションを行うことを目指しているといえます。
新HSKはCEFに合致した試験設計をしており、基礎的なコミュニケーション能力を習得したい方にとっても、適切なレベルと内容を選択できる試験となっています。
5、政府の成長戦略と人材のグローバル化
日本政府の「新成長戦略~「元気な日本」復活のシナリオ」(2010年6月18日閣議決定)において、経済成長に特に貢献度が高いとして選定された21の施策(「国家戦略プロジェクト」)の1つに「グローバル人材の育成と高度人材等の受入れ拡大」があります。
この「グローバル人材の育成」に関し、経済産業省「産学人材育成パートナーシップ・グローバル人材育成委員会報告書~産学官でグローバル人材の育成を~」(2010年4月)では、国内市場規模が縮小し外需依存が高まる中で日本が生き残るための条件として、日本企業のグローバル化を推進することが重要だとしています。
ここでは、企業がグローバル化を推進するにあたって中国の重要性をどのように認識しているのか、また、そのための人材確保に関し何を課題として捉えているのかという点に絞って報告書の概要を説明します。

【 経済産業省「国際化指標」検討委員会報告書から引用 】
実際、製造業を中心に、海外現地法人数も増加しており、中でも中国、ASEAN等の現地法人数の増加が顕著であることがわかります(図4)。

【 経済産業省「海外事業活動基本調査」から引用 】
6、日本企業の抱える課題
一方、日本企業が海外進出を進めるにあたり、海外拠点の設置・運営にあたって課題となっているのが、企業のグローバル化を推進する役割を担う国内の人材が不足しているという点です。アンケート調査によると、これを課題として挙げる割合は、回答企業の約7割となっています(図5)。

【 経済産業省「グローバル人材育成に関するアンケート調査」から引用 】
多くの企業では、グローバル化を推進するために必要な人材の確保について、その重要性は認識しつつも、一方では課題となっているという現状があります。海外拠点を設置している企業を対象としたアンケート調査でも、「グローバルに活躍できる幹部人材の育成」と「日本国内で採用した人材の国際化」が重要かつ課題であるとしている企業の比率が高くなっています(図6)。

【 経済産業省「国際化指標」検討委員会報告書から引用 】
また、グローバル人材の中でも特に、外国人とのコミュニケーション能力を備えた人材は、海外進出先だけでなく、国内業務を行う上でも求められていることがわかります(図7)。

【 経済産業省「グローバル人材育成に関するアンケート調査」から引用 】
7、日本人の語学力の実際
一方、日本人の語学力についてみると、世界的な評価は高くありません。スイスの研究機関IMDによると、日本人の語学力の企業ニーズへの合致度は、調査対象全57カ国・地域中55位です(図8、図9)。グローバルに活躍する上で、必要不可欠と言える語学力において、日本人は他のアジア主要国・地域と比べ低い水準と評価されています。

【 2009 Pfeiffer Annual Leadership Development収録、Managing Global Teams :An Asian's perspectives by Atsushi Funakawaから引用 】

【 IMD World Competitiveness Yearbook 2009 から引用 】
8、企業の求める人材と、学生の意識のかい離
企業側は、海外における今後の最重要拠点を中国と認識しているのに対し、将来を担うべき学生は欧米志向が強く、中国を中心としたアジアにおける就労をあまり望んでいないというアンケート調査結果も出ており、企業側の人材ニーズと学生の意識の間に大きな乖離が見られます(図10、図11)。

【 経済産業省「国際化指標」検討委員会報告書から引用 】

【 経済産業省「人材に関するアンケート」から引用 】
9、「「国際化指標」検討委員会報告書」のまとめと提言
ここまで 「「国際化指標」検討委員会報告書」について詳細を見てきましたが(5~8参照)、この報告書では、大学・産業界・政府に対し以下の提言が行われています。
まず、大学のグローバル化に関しては、英語のコミュニケーション能力を重視するため、入学者選抜におけるTOEIC、TOEFL等のスコアの導入や、一定の英語能力を有することを卒業条件にすることなどが提言されています。
また、企業における人材グローバル化については、採用基準や昇進・昇格基準に、TOEIC、TOEFL等のスコアを組み入れることが提言され、政府による率先垂範の例として、対外関係を有する官庁において一定基準以上のTOEIC、TOEFL等の取得を採用・昇格の条件にすることなどが盛り込まれました。
10、今後次々採用されるHSK
「6」で触れたような企業側のニーズから察するに、今後の海外最重要拠点と位置づけている中国への進出、そのための人材確保に向けて、今後は、英語だけでなく中国語のコミュニケーション能力の高い人材が求められるのは必至です。その上で、その能力の評価指標として、客観的に中国語の語学能力を証明することができ、かつ世界で通用するHSKが、TOEICやTOEFLのように、大学の入学者選抜基準や卒業条件、企業の採用・昇進・昇格基準として活用される機会も、ますます多くなっていくと思われます。






